離婚届を見せれば不倫してもOK?最高裁判所が示した「不倫の賠償責任」

ニュースの概要。
2026年6月5日に最高裁判所の第二小法廷(「尾島 明裁」判事)は、元夫が慰謝料を求めた訴訟の判決でこうありました。元妻と不貞行為に及んだ男性に対して「浮気の賠償責任なし!」という初の判例となります。

「婚姻関係の破綻を信じる相当の理由があれば、不倫相手に過失は認められず賠償責任を負わない」との初の判断を示しました。賠償を命じた香川県高松市の裁判決を破棄して、審理を高松高裁に差し戻しました。
この事案では、妻が男性(浮気相手)に「夫と離婚する」と説明していて、実際に離婚届やメールを見せていたことが大きなポイントになりました。

つまり、浮気相手に本物の離婚届を見せていれば「慰謝料請求されない可能性がある」という見方もできるのではないでしょうか?

裁判の全体像

項目内容
事件名損害賠償の請求事件(不貞行為の慰謝料請求)
当事者上告人=不倫相手の男性
被上告人=元夫
裁判所最高裁判所 第二小法廷(東京都千代田区)
判決日2026年6月5日
判決結果破棄・差戻(香川県の高松高裁へ差し戻し)
原審高松高等裁判所 2025年2月13日 判決
争点「離婚する」と聞いて関係を持った第三者に、不貞慰謝料の賠償責任があるか
婚姻関係が既に破綻していると信じたことに「相当の理由」があったか、すなわち過失の有無
初判断のポイント「婚姻関係が既に破綻していると信じ、そう信じるに相当の理由があれば、第三者に過失は認められない」

用語解説

  • 上告人=民事訴訟の判決に対して不服申立ての上告をする側
  • 被上告人=その不服申し立てをされた側
  • 上告(じょうこく)とは、日本の裁判における三審制において第二審(控訴審)の判決に不服がある当事者が、さらに上級の裁判所(原則として最高裁判所)に対して判決の取り消しや変更を求める申し立てること。

事実関係(時系列)

時期出来事
2007年夫と妻が婚姻、その後に3人の子供を授かる
2023年6月頃夫婦仲が悪化して会話はメールのみに、夫から離婚の提案をする
2023年8月頃夫が妻に「家計の別管理」「プライバシー不干渉」を提案して、妻は離婚届を準備
2023年8月頃妻は勤務先で飲食店の代表(浮気相手となる上告人の男性)に離婚を相談
離婚届や夫とのメールを見せて離婚意思を伝えて、同時期に男性と肉体関係を持つ
2023年10月頃男性宅で長い時間を一緒に過ごす(不貞行為の継続)
2023年11月頃夫と妻が協議離婚で成立(妻からの離婚届)
その後~元夫となり、元妻の浮気男性に不貞行為の慰謝料を請求 → 訴訟へ
2026年6月5日一審と二審を経て、最高裁で判決へ(再び審理へ)

各審級の判断比較

審級判断理由
第一審請求棄却肉体関係そのものを認定せず、審理は不要とされる。

ポイント▶肉体関係がないから慰謝料は払わなくてよい。
第二審
(高松高裁)
一部認容
(賠償命令)
肉体関係を推認。「離婚した」との説明を鵜呑みにしたのは注意不足(過失あり)。

ポイント肉体関係はある。離婚したという嘘を信じたのは不注意だから慰謝料を払いなさい。
最高裁破棄・差戻「離婚した」と信じたことの過失だけでなく「婚姻関係が破綻していると信じたこと」の相当性も検討すべきだったのに、二審はそれをしていない=法令違反と指摘。

ポイントニ審は「婚姻関係の破綻」を信じるに足りる客観的な状況(離婚届やメールなど)を十分に検討していない。もう一度、高裁で審理しなさい。

第ニ審(高松高裁)の判断ポイント

ニ審がなぜ「浮気男性に過失(落ち度)がある」としたのか、その理由は以下の通りです。

  • 「離婚した」という言葉を、鵜呑みにしたことへの指摘

世の中には、不貞行為に及ぶために「離婚した」「婚姻関係が破綻している」と嘘をつく人もいます。そのため、相手の言葉をそのまま信じるのは注意が足りない(過失がある)とされました。

  • 「相当の理由」の否定

浮気相手の男性が「夫と離婚した」と信じたことについて、客観的に見て納得できるだけの「相当の理由」があったとは言えない、と判断されました。

最高裁の判決理由は?(二審の誤り)

最高裁が原審(現在、行われている裁判のひとつ前の段階で下された裁判)を破棄した核心は、次の2段階です。

  • 「離婚した」と信じた

客観的に離婚届は未提出だったので、信じたことに相当の理由は乏しい。

  • 「婚姻関係はすでに破綻していた」と信じた

離婚届を実際に見せられ、夫婦間メールでも離婚の意向を確認できる以上、信じたとしても相当の理由は十分にある。

原審(高松高裁)は、この後者を検討せずに過失を認定したために違法、ということです。
裁判長の補足意見では、原審の「審理・判断・判決の在り方いずれにも問題がある」と踏み込んで批判しました。不貞行為の慰謝料と離婚の慰謝料の区別、破綻の有無・時期、第三者の認識の3点をきちんと審理すべきと指摘しました。

二審は、上告人=浮気男性が「夫と離婚した」という言葉を鵜呑みにした点のみを捉えて過失があるとした。
しかし離婚届の確認や、家計別管理・プライバシー不干渉のメールの存在などから「婚姻関係が既に破綻している」と信じるにつき相当の理由があったかを検討すべきであった。この検討をせずに直ちに過失があるとした判断には、法令の解釈適用の誤りがある。という最高裁の指摘であった。

重要視された証拠

  • 離婚届の現物を、浮気男性に見せていた
  • 夫婦間のメールで離婚の意向(家計別管理・プライバシー不干渉提案)が確認できた
  • 会話はメールのみという夫婦生活、共同生活の実態のなさ

「初判断」と言われる理由

1996年の判例から、
「不貞時に婚姻関係が既に破綻していれば、第三者は原則として不法行為責任を負わない」としていました。しかし「不倫相手が破綻を信じていた場合(誤信していた場合)にどう扱うか」については最高裁の明示的判断がありませんでした。
今回の判決は「破綻を信じたことに相当の理由があれば過失なし=賠償責任なし」を初めて示した点で「初判断」と評価されています。

そもそも不貞行為とは何?

民法770条1項1号にいう不貞行為とは「配偶者ある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」を指します。判例上は肉体関係(性交渉)の有無が中核で、デート・手をつなぐ・キスなどは原則として不貞行為そのものには含まれません。しかし昨今では、そうした証拠だけでも「不貞行為の立証」として有効です。そのため、探偵の浮気調査が話題にされることもあります。

プラトニックな恋愛感情のやり取り(メール・LINE・食事)は、それ単体では不貞行為になりません。ただし、夫婦の平穏な共同生活を侵害する行為として、別途、慰謝料請求の対象(不法行為)になる可能性はあります。

不貞慰謝料が成立する典型要件は次の4つです。

  • 配偶者と第三者の肉体関係(不貞行為)が存在すること
  • 第三者に故意または過失があること(既婚と知っていた/知り得た)
  • 夫婦の婚姻共同生活が平穏であったこと(=破綻していないこと)
  • 損害(精神的苦痛)と相当因果関係があること

「婚姻関係の破綻」とはどんな状態を指す?

「別居=破綻」と単純には言えません。
単身赴任・親の介護・一時的な別居など、破綻と無関係な別居も多いためです。実務では別居期間の長さ・別居の理由・婚姻関係修復の可能性などを総合的に考慮します。

離婚協議が進んでいても、まだ修復の余地があれば破綻とは認定されないのが原則です。
一方で、別居が長期化し、家計が完全に分離し、メールも事務連絡のみ……といった夫婦としての実体が完全に喪失している場合は、離婚届が未提出でも破綻認定される余地があります。今回の事案も、まさにこの「離婚届は未提出だが、夫婦関係は喪失寸前」という微妙なラインでした。

今回の裁判で問題になったポイント!

裁判所が見る判断ポイント

最高裁が破綻認識の有無を判断する際に重視するファクターは、概ね次の通りです。

  • 別居の有無と期間
  • 家計や生活実体の分離
  • 夫婦間のコミュニケーションの実態
  • 離婚に向けた具体的行動(離婚届の準備、協議書作成など)
  • 第三者が直接見聞きした客観的事情

本件で決定的だったのは、妻が浮気男性に実際に署名済みの離婚届を見せていた点です。
第三者にとっては「夫婦関係はもう終わっている」と認識する強力な根拠になります。

さらに男性は、妻が夫から受け取った「家計を別管理にしよう」「お互いのプライバシーに干渉しないようにしよう」といったメール文面まで確認していました。
これは妻側の言い分だけでなく夫側も婚姻生活の解消を示していた客観的な証拠です。

男性が信じたのは、厳密には「もう離婚届が出されている=戸籍上の独身」ではなく、「夫婦としての婚姻共同生活はもう終わっている」という実体面の認識でした。
最高裁はこの「戸籍上の離婚の認識」と「婚姻関係の破綻の認識」を切り分けて評価すべきと述べたのです。

原審・高松高裁は「離婚したと信じたことに相当の理由があるか」しか検討しておらず、「破綻していると信じたことに相当の理由があるか」を検討していなかったためです。
これは判決に影響を及ぼす法令違反だとして、もう一度高松高裁で審理し直すよう命じました。

浮気相手は「知らなかった」で逃げられる?

不貞慰謝料は故意だけでなく、過失でも成立します。
つまり「普通の注意を払えば既婚者だと、あるいは婚姻関係が継続中だと気付けたはず」であれば、知らなかったでは済まされません。

独身を装われた、結婚指輪をしていなかった、マッチングアプリで独身設定だった。こうした事情は過失の有無を判断する材料になります。
ただし、自宅住所・家族の話・SNSなどで容易に確認できたような場合は過失ありと評価されやすくなります。

今回の最高裁判決を踏まえると「離婚していると思った」という弁解は、離婚届・離婚協議書・夫からのメールなど、客観的根拠とセットで初めて通用します。
口頭で「もうすぐ離婚する」と言われた程度では、過失なしとは認められにくいでしょう。

  • 離婚届の現物や写し
  • 別居の客観的証拠(住民票や賃貸契約書)
  • 夫婦間メールやLINE等の応酬
  • 親族や友人の認識
  • 第3者が直接見聞きした事情

まとめ

今回の最高裁判決から学ぶべきこと。

  • 不貞慰謝料は「肉体関係さえあれば必ず認められる」わけではない
  • 婚姻関係の実体と、第3者がそれをどう認識していたかが重要に
  • 「離婚したと聞いていた」「もう破綻していると思った」という弁解は、客観的裏付け(離婚届・メールなど)があれば通用する余地がある

慰謝料請求では証拠が重要です。
不貞行為の証拠だけでなく、婚姻共同生活が継続していたことを示す証拠も同じくらい重要となるかもしれません。
今回の判決では「婚姻関係の実態」をめぐる攻防が訴訟の山場となりました。配偶者の不貞に悩まれている方は、探偵や弁護士などへご相談いただき必要十分な証拠を確保することが必要かもしれません。